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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(オ)436号 判決

上告人

馬橋昌子

上告人

馬橋恵美子

上告人

馬橋弘

上告人

馬橋利行

右弘、利行法定代理人

馬橋昌子

右四名訴訟代理人

岸副儀平太

被上告人

並木道良

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人岸副儀平太の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係のもとにおいて、民訴法一九八条二項に基づく原状回復義務及び損害賠償義務は民法五〇九条にいう「不法行為ニ因リテ生シタ」債務にあたらず、また、右原状回復及び損害賠償が別訴で請求された場合、その債務者は、前訴の請求債権と請求の基礎を同じくする債権を自働債権とするときであつても、相殺をもつて債権者に対抗することができるとの趣旨の見解のもとに、被上告人の相殺の抗弁は理由があるとして上告人らの請求を一部棄却した原審の判断は、正当として是認することができる。原審の右認定判断が確定判決の既判力に違反する旨の主張は、すべて独自の見解に立つ議論であつて、採用することができない。所論のうち本案の裁判に関する論旨はすべて理由がない。

所論のうち訴訟費用の裁判の違法をいう部分は、本案の裁判に対する上告が理由のないときは、訴訟費用の裁判に対する不服の申立は許されないから(最高裁昭和二七年(オ)第七三四号同二九年一月二八日第一小法廷判決・民集八巻一号三〇八頁)、本案の裁判に関する論旨が理由のない以上、上告適法の理由にあたらない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(本山亨 団藤重光 藤崎萬里 戸田弘 中村治朗)

上告代理人岸副儀平太の上告理由

第一点、第二点〈省略〉

第三点

一、原審判決は、春海に農地売買斡旋依頼に対し約定違反として損害賠償義務があるとの判決に対する上告人らの反論左の如し。

(一) 原判決の基盤である、控訴人の春海に対する土地斡旋約定の不履行を請求する土地の前記「1ないし7」の取引の基礎事実と、本訴第一審判決文記載の第一次・第二次訴訟の目的物とは全部同一である(本訴第一審判決二項、九枚目裏一〇枚目から一〇枚目表七行目まで参照)。

(二) 本訴控訴人が被控訴人らに対する損害賠償請求の甲第一、二、六、七、一〇、三〇号証の損害賠償請求事件は、前記上告理由第一、二点において上告人らが主張のとおり最高裁の各上告棄却の判決言渡しにより各確定し、既判力を生じ、実体法上並木道良より馬橋恵美子外三名に対し、前記損害目録「1ないし7」記載の土地売買取引について損害賠償の請求権は存在しないことが確定し、原審も亦この既判力に覊束せらるることは民訴法第一九九条一項規定の適用を受くるものである。

原審判決は右法令を適用しなかつたことは法令の適用を誤り且つ事実誤認である。

(三) また上告人らは、被上告人の不当な仮執行により、甲四号証記載の金二〇四万八、八〇〇円の(内訳供託書記載のとおり)甲九号証記載の金七四万一、六六四円の損害を被つていること(内訳は同供託書記載のとおり)。

(四) 然して右損害金は本訴第一審判決において容認され、判決主文のとおり判決言渡があつた。

(五) 原審判決は、春海に判決理由二項、1、2、3記載の理由により、春海に、二四二万二、〇〇〇円の債務不履行の損害を賠償すべき義務を負つているというべきであると判示した(判決理由、四枚目表一行目から七枚目九行目参照)。

然しこの原審判決は前記上告理由のとおり最高裁第一、二小法廷の判例に違背し、法令の適用を誤り事実誤認がある御庁において破棄さるべきである。

(六) 次に、原審判決が、被上告人の相殺の抗弁を認めたことは、民訴法一九八条二項の解釈を誤つているところである。

被上告人が不当の執行により、上告人らに前記の損害を被らせたのは、仮執行は、仮りの確定により強制執行をなしたものであり、本案判決により、被上告人の仮執行が取消された以上はその危険は総て被上告人が責を負い(無過失損害賠償責任を負うべきであること)上告人らが不当な仮執行により、執行を免るるために保証供託をなした金額その執行費用利息等の損害を、上告人らは実体法上の請求権に基づき、別訴訟において権利の救済を得せしめたのが民訴一九八条二項の規定である、即ち不当利得返還請求権である。原審判決がこれに反する判決は同法の解釈を誤つているところである。

(七) 次に原審が相殺の抗弁を認めたのは、上告人らの実体法上の権利を正当の理由なく且つ既判力にそむくものであつて御庁において破棄さるべきである。

(八) もし被上告人の抗弁をもつて対抗し得るものとすると、仮執行債権者の右権利の実現が遅延することは明らかであり、すでに失効した仮執行宣言に基づく不当な利益を手中に保持しながら、また、不当な仮執行によつて相手方に与えた損害を賠償せずして、同一の事実関係に基因する紛争に関し他方の請求権の存否について更に審査を求めるのは公平の原則に反する。この主張の本訴第一審の判断は最も公平な判断というべきである。

(九) 次に原判決、5の判示について、(八枚目表七行目から裏三行目まで)この点の判決理由は、前記第一点二点三点において説明したる既判力に反する違法の判決である。

(十) 次に、6の判示について、(八枚目裏四行目から九枚目裏七行目まで)相殺の効果について。

この点も亦5の場合と同じく相殺そのことが前記理由により違法であるからその効果が生ずるに由なし。

(十一) 7について(九枚目裏八行目から一〇枚目表四行目まで参照)委託契約上の損害は、前記上告理由第一、二、三点の理由により損害の生する正当の理由がないこと。従つて計算上の原審判決は前記同様の理由により違法であること。

8について、(一〇枚目表五行目から一二枚目裏七行目まで参照)民法五一二条は相殺の充当規定四八八条は、弁済の指定充当の規定四八九条は、法定充当の規定、四九一条は、元本利息費用の順序の規定等の適用は法令を不当に適用したものである。既判力に対する違反であり御庁において破棄さるべきである。

次に、昭和四八年一二月二〇日以下の判示について、(一〇枚目裏八行目から一一枚目裏七行目まで参照)昌子の有する債権と相殺勘定についても前記の理由により違法である、最後に、訴訟費用については、民訴一九八条二項の救済の範囲は訴訟費用を含むこと、及び上告人らの請求は民法実体法上の請求であるからその損害賠償請求の範囲は民法四一六条、一、二項の適用があり、尚民訴一九八条二項は無過失損害賠償の性格を有するものでありまた、第二、三審において並木の負担となつているから原審判決が上告人らに訴訟費用の負担の判決は違法、不当の判決であること以上の理由により、原審判決は御庁において破棄され、上告趣旨記載のとおり御判決を求める次第である。

右のとおり陳述致します。

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